「「完全なる失恋だ」」と思っている夫婦ですが、実は相思相愛です!~無愛想な脳外科医はお人好し新妻を放っておけない~
「そうですよね、通勤に時間がかかるとそれだけ睡眠時間が減りますよね」

 外科医がどれほど過酷なのか、与人の様子を知っているので理解はできる。

 本当は与人も病院の近くに住みたいだろうが、食事や洗濯ができないと言ってまだ実家から通っている。

 本当はそれだけが理由じゃないだろうけど。

 靴を脱いで中に入る。リビングに案内されてソファに座るように言われて大人しく従う。

「足、みせて」

「え?」

「ケガ、心配だから確認させて」

「いえ、あの本当に平気なので。ほんの少し痛いだけですし」

 そう言いながら彼を見たが、納得しないようで私の前にひざまずきその膝に足を載せるようにポンポンと叩いている。

 ん~これはきっと、見せるまで押し問答が続きそう。

 今日であったばかりだが、一緒にいてわかったことがいくつかある。

 彼はぶっきらぼうだけれど優しい。だけどわりと頑固だ。

 きっと医師として私の怪我がどういったものか確認しておきたいのだろう。

 放置できないのは医者の性みたいなもの?

 あきらめて彼の膝の上に足を載せると、真剣なまなざしで状態の確認をしている。

「腫れはないようだけれど、こうすると痛い?」

「いいえ、ただ少し足をつく際に違和感があるんです」

「なるほど。とにかく冷やして朝まで様子をみよう」

 私が頷くと、かれは救急箱を持ってきて中から湿布を取り出した。

 使用期限を気にしているあたり、普段はここに住んでいないというのが本当なのだと実感する。

「冷たいけど、我慢して」

「はい……んっ」

 わかっていても、冷たくてぶるっと体が震えた。彼はくすっと笑って片づけをしている。

「コーヒーは飲める?」

「はい、大好きです」

「OK。まぁ、味は保証できないけどな」

 彼がキッチンに向かった後、しばらくするとコーヒーの匂いが漂ってきた。

「ミルクは?」

 廊下の向こうから声がした。

「いりません」

 そう言った後すぐに、彼がマグカップふたつを持ってリビングに来た。コーヒーを私に手渡すと隣に座る。

「ありがとうございます」

 息をふきかけて、少し冷ましてからひとくち飲んだ。

「疲れただろうから、少しでも落ち着けるといいんだけど」

「たしかに色々あったんですけど、おかげさまでほっとします」

 温かいコーヒーのおかげで、少しだけ体のこわばりがとけたようだ。

「よかった。インスタントで申し訳ないな」
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