「「完全なる失恋だ」」と思っている夫婦ですが、実は相思相愛です!~無愛想な脳外科医はお人好し新妻を放っておけない~
「よく言われます。おせっかいがにじみ出ているんですかね?」

 私が笑うと、彼もわずかに表情を緩めた。

「弟は私と違って勉強もスポーツもできて、母が闘病している姿を見て医師になりたいってずっと言っていたんです。でも……その、医学部ってお金がかかるでしょう?アルバイトする時間もなかなか取れないだろうし。だから思い切って私は就職して、私のぶんの学費を弟に回すことにしたんです。まだ研修医なんですけど、でも無事に医師になってくれてほっとしています」

「そうだったのか。弟もだけど君も頑張ったんだな」

 手放しに褒められて罪悪感を持つ。私が本当に弟の事だけを考えて世話をしていたわけではないからだ。

「どうでしょうか? がむしゃらだったって言う方が正しい気がします。ただ必死だったからこそ、母の死を乗り越えられたのはたしかです」

 母は長い間病床に臥していた。それでもこの世に存在しているという事実が私たち兄弟を支えていたのはたしかだ。

 その心のよりどころを失ったときの喪失感は、自分の生きる活力を奪うようなものだった。

「私って本当に何の取り柄もない人間なんですよ。でもそんな私にとって、弟を育てることが人生の目標になったんです。そうしたら周りの人が『偉いね』って言ってくれて。考えると自分の承認欲求を満たしていたんだと気付きました」

「そんなことないだろう。事実君のやってきたことは褒められるべきだ」

 はっきりと否定されてうれしい。それと同時に素直に受け止められない自分もいる。

「ありがとうございます。でもそう言ってもらうことでしか、自分を認められないんです。弟だって重荷に感じている部分もあると思います」

 実際、研修医で寝る間も惜しんでいるはずなのに病院の寮にも入らず、近場に家も借りずにいるのは私をひとりにしないためだ。

「私もそろそろ、本格的に弟離れしたくて。早く結婚したいなって」

「結婚? ずいぶん飛躍するな」

 わずかに驚いたみたいで、私の様子をうかがっている。
< 13 / 19 >

この作品をシェア

pagetop