「「完全なる失恋だ」」と思っている夫婦ですが、実は相思相愛です!~無愛想な脳外科医はお人好し新妻を放っておけない~
「弟には年上の彼女がいて結婚前提でお付き合いしているのは知っているんです。そんなふたりの会話をある日聞いてしまって。弟はどうやら私がひとりになるのを心配しているみたいで。私が結婚するまでは結婚する気がないって言っていて。そのときに私はずっと弟の支えになっていると思っていたのに、今となっては足かせになってしまってるって思えてしまって」

 胸が苦しくなる。弟を立派に育てることで、母の死を乗り越え承認欲求を満たしていた。

 全部私がやりたくてやってきたことだ。しかしそのことが弟の今の幸せ邪魔してしまっている。

「本末転倒を絵に描いたみたいですね」

 私が笑ってみせたが、南雲先生は難しい顔をして私を見ていた。

「いつの間にか自分の幸せは弟の幸せになっていたんです。でもそれじゃダメなんだって思い知りました」

 彼は言葉なく頷いた。

「あ、でもこれまで彼氏がいなかったわけじゃないんですよ。お付き合いした人もいるんです。でもいつも家庭を優先するあまり、最終的にはうまくいかなくなってしまって」

「うまくいかないって?」

「彼の気持ちをきちんと受け止められなかったせいで、相手が軽いストーカーのようになってしまって。彼の人生を壊してしまった。それから恋愛するのが怖くなってしまって。それなのに結婚したいなんて、だれかこんな私でもいいって言ってくれる人が現れるといいんですけど。まぁ、前途多難です」

 最後は暗くならないように、肩をすくめてみせた。

 南雲先生も私の気持ちを酌んでくれたようで、それ以上は触れてこなかった。

 ただ、彼の気持ちを呟いた。

「人の価値なんて……そこに存在しているだけで十分だろう」

 彼のその言葉が妙に胸に響いた。

「今日あったばかりなのに、不思議ですね。気持ちが軽くなりました。カウンセラーの資格持ってるんですか?」

 彼はのどの奥で小さく笑いながら、首を振る。

「その逆だ。いつも看護師に叱られる。言葉が足りてないせいで患者が不安がってるって」

真面目だけれど余分なことをしゃべらない様子を、想像して笑ってしまった。

笑った私を見て、彼は体ごと私に向き合った。真剣な目がこちらを見ている。

「自分を大切にするんだ。それが周りを幸せにする」

 彼が私を心配して送ってくれた言葉だとわかる。

「そうなのかもしれません。すごく実感がこもってますね」

「気のせいだろ」

「そうですか」
< 14 / 19 >

この作品をシェア

pagetop