「「完全なる失恋だ」」と思っている夫婦ですが、実は相思相愛です!~無愛想な脳外科医はお人好し新妻を放っておけない~
「ありがとうございました」

「念のため、新しい湿布を貼っておこう」

「はい」

 優しく丁寧に処置をしてもらったあと、彼はまたキッチンに向かった。

「先にシャワーどうぞ。タオルは置いてあるのを適当に使って」

「はい。ではお言葉に甘えます」

 私はキャリーケースから予備に持ってきていた着替えを取り出して、シャワーを浴び身支度を整えた。

 さっぱりした私が、キッチンに向かうと立派な朝食がダイニングテーブルの上に並んでいた。

 タラの西京焼き、ホウレンソウの入った卵焼き、お豆腐とわかめの味噌汁。

「はぁ~完璧な朝ご飯ですね」

 いつも家事をしている私でも驚いた。これを準備するは結構大変なはずだ。

「ちょうど、食べてしまわないといけない食材があったからそれを使い切りたかったんだ。別に手の込んだものじゃないだろ」

「いいえ、十分手がかかってますよ」

「味は適当だぞ。座って」

「はい」

 彼に言われるまま、ダイニングテーブルに着くと、すぐに白いご飯をよそってくれ手渡された。彼も自分のものを用意して向かい合って座る。

「いただきます。おいしそう誰かに作ってもらう朝ご飯なんて久しぶり」

「弟は料理はしないのか?」

「はい。勉強と仕事が忙しそうだったので、家事は私が全部やってました」

 お茶を淹れながらしかめ面をする。

「甘やかしすぎだ」

「そうかもしれません」

 手をあわせてから、まずはお味噌汁を飲んでみた。

「おいしいです。体に染みる」

「大袈裟だな、遠慮なく食べて」

 私は頷くと、お皿に手を伸ばした。

「ここで誰かとこんなふうに食事をするのは、久しぶりだな」

「……そうなんですね」

 その相手が私でよかったのだろうかと思うが、口にしないでおく。

「唯一の家族だった母が亡くなったのが、大学六年のときだからもう十一年か。こう考えると早いな」

 なつかしそうにしながら、ごはんを口に運んでいる。

「君が昨日言っていた『必死だったから、耐えられた』っていう言葉、なんとなく理解できた。俺もあのころは医師になるのに必死で寂しさを感じている暇すらなかったから。それはそれでよかったんだって昨日の君の話を聞いて思えたよ」

「いいのか悪いのかは……わかりませんけど」
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