「「完全なる失恋だ」」と思っている夫婦ですが、実は相思相愛です!~無愛想な脳外科医はお人好し新妻を放っておけない~
なんとなく気まずい雰囲気に耐えられずに、そうそうに準備を終えた。

 タクシーを呼んでもらい、そこで別れると思っていたのに、彼はまたなにか起こすかもしれないからと言って、駅まで送ってくれるという。

 親切で申し訳ないと思う反面、まだもう少し彼といられると思うと素直にうれしかった。

 駅に着いたときは、残念に思うくらいだった。

「チケットは持っているか? 時間は大丈夫なんだろうな?」

「ふふふ……お父さんがいたら、こんな感じなんですかね?」

 記憶の中の父の記憶がないので、あくまで想像なのだけれど。

 すると彼は顔をしかめた。

「せめて、父親じゃなくて彼氏って言ってほしいな」

「か、彼氏?」

 一気に意識してしまった、顔が熱くなる。心臓がドキドキしてどうしていいのかわからない。一瞬にして慌てふためく。

 そんな私を見た南雲先生は、くくっ口元にこぶしを当てて笑っている。

「からかったんですか! も~」

 真に受けてしまって恥ずかしい。こういうことに慣れていないのがバレバレだ。

「すまない。でもどう考えてもお父さんっていうより彼氏のほうがぴったりだろう」

「それは……年齢的にはそうでしょうけど」

「年齢だけじゃなくて――いや、なんでもない」

 彼がそっと手を差し出した。握手をしようと言うことだろう。

 でもその手を取るのを、一瞬ためらってしまった。もしその手を取ってしまったら、彼とはさよならするということだ。

 さみしいな……。

 楽しかった時間はここまでだ。私はこれまでで一番の笑顔で手を差し出すと彼の多き手のひらをぎゅっとにぎった。

「おせわになりました。お元気で」

「あぁ、君はケガにきをつけて」

「はい!」

 返事をした私は、彼からキャリーケースを受け取り元気に改札に向かった。一度振り変えると、彼が私に気が付いて大きく手を振ってくれる。

 私もこれ以上ないほど、大きく手を振って改札を抜け、素敵な思い出を胸に東京への帰路に就いたのだった。

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