だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
「春野さん」

 会話を終えたタイミングで、別の方に声をかけられて振り返る。そこには、同年代の女性が立っていた。

「たしか、横宮さんでしたね」

 彼女は横宮莉緒(りお)といい、和也さんとは母親同士の仲が良いため幼い頃から付き合いがある。いわゆる幼馴染で、彼からは妹のような存在だと聞いている。

 和也さんは実の妹ではないからと式への招待を渋っていたが、お母様と莉緒さん本人が強く希望したため招いている。おそらく彼女の方も、和也さんを兄として慕っているのだろう。

 横宮さんのご実家は、大手百貨店を経営している。桐島グループも百貨店事業を展開しているため、父親同士も面識があるのかもしれない。

「このたびは、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
 
 当たり障りなく返しながら、そういえば先ほど耳にした横宮家の縁談とはこの女性ではないかと思い至る。

 さりげなく彼女を見る。
 小柄な彼女には、ナチュラルブラウンの緩く巻いたふわっとした髪型がよく似合っている。白い肌にぽってりとした唇が魅力的で、まるで人形のようなかわいらしさだ。

「春野さんのご実家は、飲食チェーン店を経営しているんですってね」
「そうですけど」

 なとんとなく口調が刺々しいと感じるのは気のせいだろうか。
 それに、質問の意図がわからない。表情から探ろうにも、彼女は作ったような笑みを浮かべているだけだ。

「春野のあのレストランが和也さんの事業に参加するなら、絶対に話題になるはずですよね。成功間違いなし!」

 演技がかったはしゃいだ様子でそう言った横宮さんを、ますます注意深く見つめる。
 思いの外踏み込んだ話をされて、心がざわめいた。

「その件について、私は関知していないので」
「そうなんですか⁉」

 驚きに目を見開きながら口もとに手を当てた仕草は、なんだか大げさだ。
 彼女は、この話を私も知っていて当然だと思っていたらしい。
 そして実際には聞かされていなかったと知って、私を蔑んでもいるのかもしれない。
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