だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
 明らかな同情の視線を向けられたら、いい気はしない。

 兄が和也さんの事業に協力すると、私はさっき知ったばかりだ。それなのに、会社の関係者でもない彼女がどうしてそこまで知っているのか。

 まさか、和也さん本人から聞いたのだろうか。

「和也さんにとって、すごく大事な事業って聞いていますけど……? 事業の成功がおじ様の後を継ぐ条件じゃないかしらって、私は想像したんですよ」

 彼がお父様の後を継ぐ条件なんて、一度も耳にしたことがない。

 横宮さんの言い分を聞いていると、和也さんはやはり兄のレストランが目当てで意図的に私に近づいたのではないかという疑念が再び膨れ上がる。

 なにも言い返せず、ぎこちなくなる。ここで弱みを見せたくなくて、ドレスの陰で密かに手を握りしめながら、ひたすら笑みを浮かべ続けた。

「そうそう」

 なにを思い出したのか、横宮さんがくすりと笑う。

「かつては、私と和也さんの縁談が持ち上がっていたんですよ。幼いころから付き合いがあって気心の知れた仲だったので。和也さんも、ずいぶん前向きだったんですけどね」

 横宮さんがすっと瞼を伏せる。どこか寂しげな様子に、彼女も和也さんとの結婚を望んでいたのだと感じ取った。

 ズキズキと胸が痛みだす。
 お互いに受け入れていた縁談は、なぜまとまらなかったのか。気にはなるものの、私がここで聞くわけにはいかないだろう。

 パッと目を開けた彼女と、視線がぶつかる。

「末永く、お幸せに」

 淡々とした物言いからは、お祝いしようという気持ちはまったく感じられない。
 私はただ、身を翻した彼女の後ろ姿を見つめることしかできなかった。



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