だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
 強い意志を持って唯一無二のお店作りを目指していたはずの兄が、一転して和也さんと手を組む決断をしたのはなぜか。

 妹の私が結婚して縁ができ、秘密裏に接触した和也さんに兄が懐柔された。彼は有能な経営者で魅力的な人だから、年下の兄は憧れや尊敬の念を抱くようになるかもしれない。会社の後継者という同じような立場にあるからこそ、話も合うだろう。
 その結果、兄はこれまで頑なに貫いてきた信念を曲げて料理の提供を決めた、という可能性はあるだろうか。
 
 そうなるように、和也さんは私に意図的に近づいたのか。

 不安になって、周囲を見回す。
 お祝いの場なだけあって、誰もが明るい表情をしている。ここぞとばかりに、人脈作りやプライベートな出会いを求めている人もいるようだ。

 再び兄らの方へ視線を戻す。
 兄はいつだって私の味方になってくれる人だ。美紅を叱るという、嫌な役割を負う私を気遣ってもくれる。
 以前からわずかでも時間ができたときには、市場調査と称して食事やお茶に誘いだしてくれていた。それは取って付けた理由にすぎず、本当は私を労うためにしているのだと気づいている。

 和也さんも、兄と同じ気遣い屋で優しい人だ。間違っても実家が目当てで私につきまとっていた元カレの西山(にしやま)真人(まさと)とは違うと、つい嫌な思い出がよみがえってきた。

 私が真人にしつこく絡まれていたとことを、近くを通りかかった和也さんが助けてくれた。それがきっかけとなり、私たちは仲を深めていった。

 あの出会いは、まったくの偶然だったはず。
 けれど、それこそが仕組まれたものだったとしたら?

 不安から、再び突拍子もない考えが浮かぶ。
 ひとまず心を落ち着こうと、小さく息を吐き出した。

 とにかく、今は結婚式の真っ最中だ。考え事は後ですればいいと強引に気持ちを切り替えて、挨拶に来てくれた招待客をと会話を交わす。他人の目があったおかげで、なんとか冷静さを保っていられた。
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