だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
『幸い先方は俺の知り合いで、あちらから連絡をもらって発覚したんだ。向こうもうちの店のスタンスを知っていたから、相当困惑したようで。端から貴美子さんの話を真に受けていたわけではなかったが、店の方は大丈夫なのかと心配して教えてくれた』

 信じられない。
 これまで兄やスタッフたちが時間をかけて築き上げてきたものを、お母様に蔑ろにされたようで気分が悪い。
 声をかけられたパティシエの方も、とんだ迷惑だっただろう。

『貴美子さんは、うちの店を褒めてくれているんだ。それはありがたい話だが、だからと言って……なあ』

 言いよどむ兄に、まだなにかあるのかとついため息が漏れる。
 私の義母になった人だからと、兄は彼女をなんとか好意的に捉えようとしてくれていたが、そうも言っていられない事態が起きているのかもしれない。

「兄さん、ごめんなさい。ほかにもなにかあったのなら、全部教えてほしい」

 私では彼女を止められない。まったく力になれないとわかっているが、それでも知らずにはいられなかった。

『……そうだな』

 スマホ越しに、兄が小さく息を吐き出す。さんざん苦労をかけられただろうとわかるその気配に、申し訳なさでいっぱいになった。

『紗季も、なにがあったかを知っておくべきだろうな。だが、これだけはわかっていてほしい。俺は紗季を責める気などいっさいない』

 いろいろと察せられる前置きに、ますます気が重くなる。

「うん、わかってる」

 謝りたくても、兄は私にそうさせてくれない。それが歯がゆくて仕方がなかった。
< 101 / 141 >

この作品をシェア

pagetop