だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
 無事に結婚式を終えて、和也さんとともに部屋に引き上げる。彼は今夜のために、式場のあるホテルのスイートルームを予約してくれていた。

 本来なら、室内の豪華な雰囲気やリビングから見られる夜景にはしゃいでいただろう。
 でも、今はとてもそんな気になれない。

「どうした、紗季。疲れてしまったか?」

 和也さんが心配そうに私の顔を覗き込む。

「ここのところ、ずっと忙しくしていただろ? 今夜はこのままゆっくり休もうか」

 一年も交際していれば、彼とは体の関係にある。
 とくに決めていたわけではないけれど、結婚式を挙げた今夜は特別で、盛り上がった気持ちのまま肌を重ねるものだと思い込んでいた。

「いいの?」

 そう尋ねた声はあまりにも頼りなくて、彼は眉を下げて私の髪をなでた。


「もちろん。体調のよくない紗季に、無理はさせられない」

 その言葉にほっとしたのは、気づかれていないだろうか。許してくれるのならと、彼の言葉に甘えさせてもらう。

 それぞれに入浴を済ませて、ベッドにもぐりこむ。
 さすがにここで別々に眠る選択肢はなくて、和也さんの隣に体を横たえた。

「紗季」
 
 そっと抱き寄せられて、おとなしく身を任せる。

「おやすみ」
「……おやすみなさい」

 これまでの私なら、こうして体調を気遣ってくれる彼を優しい人だと感動していただろう。
 でも、今夜は素直に受け取れない。

 彼は性的に淡白なのか、頻繁に体を求めてはこなかった。一般的な実態は詳しくないものの、私たちは多い方ではなかったように思う。
 仕事に全力を注いでいた私にとってはそのペースが合っていて、考え方が似通っているのは付き合う上でプラスだと考えていた。

 でも……。
 しばらくの間閉じていた瞼を、そっと開ける。

 本当は、和也さんが私に恋愛感情を抱いていなかったとしたらどうだろう。完全に兄の事業が目的で近づいただけなのなら、あっさりとした付き合いになるのもうなずける。
 これまでは自分にとってちょうどいいペースだと感じていたはずなのに、今日一日で見方が変わってしまった。
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