だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
「はあ」

 重く長いため息が漏れる。
 気が進まない。でも自分がお母様と対峙すると決めた以上、逃げ出すつもりはない。

「はい」
『ああ、紗季さん。ずいぶん早い帰宅ね』

 こちらはモニターで確認できているとはいえ、お母様は名乗りもせずに棘のある口調で言う。

 私が帰っていると考えたからこそ訪ねてきただろうに、わかりやすい嫌味な言い回しだと思う。毎晩遅くまで働く和也さんに対して、私の帰宅が早かったのが気に入らないのだろうか。金曜日は定時上がりだという会社のルールを説明したところで、理解は得られそうにない。

「……今、開けますね」

 このままモニター越しに話しているわけにもいかず、お母様が入って来られるように開錠した。
 待っている間に簡単にリビングを整え直し、飲み物の用意をする。

 ほどなくして玄関チャイムが鳴り、急いで出迎えた。

「え?」

 てっきりお母様ひとりかと思いきや、その背後には若い女性が佇んでいる。

「まあ。紗季さんは挨拶もできないのかしら?」

 戸惑う私に、お母様が大げさな調子で言う。完全に私を馬鹿にした物言いだ。
 彼女の背後に立つ女性も、私を見ながらくすりと笑った。

「どうして、横宮さんが……?」

 突然の訪問と、会いたくない女性との対面に表情が引きつる。
 横宮さんはあえてモニターに映らないようにしていたのだろうと察せられた。

 彼女は和也さんの幼馴染で、彼の元恋人かそれとも現在進行形の浮気相手かと私が疑った女性だ。
 もちろん今は、彼にとって妹のような存在だったと信じている。

 それでも親しい間柄にあったと思うと、寛容な気持ちにはなれそうになかった。
 母親同士の仲がいいらしいから、彼女とお母様ももちろん長い付き合いになるのだろう。
 ただ、お母様はなぜ彼女まで連れてきたのかがまったくわからなかった。もしかして、先日のランチ会に横宮さんも参加していたのだろうか。
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