だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
「ちょっと、中に入れて下さらないのかしら? まあ、ここは和也の家なのだから、あなたの許可なんていらないのでしょうけど」
「すみません。どうぞ」

 そんなわけにはいかないと、下手に出ながらあえて許可を出すように中へ促した。

 ふたりをリビングのソファーに案内して、目の前のテーブルに紅茶を並べる。
 カップをチラリと見たお母様は、上品な手つきで持ち上げて口もとへ運んだ。

 隣に座った横宮さんは、私の出したものはいっさい口にする気がないようで手に取らない。終始口角を上げてお淑やかにしているけれど、彼女の少しも笑っていない目からはよい感情が伝わってこなかった。

「それにしても」

 カップをソーサーに戻したお母様は、室内を見回して最後にダイニングの向こうのキッチンに視線を止めた。

「仕事をするのは結構ですけど、家庭のこともきちんとこなせているのかしら」

 私へ向き直った彼女は、わずかに眉根を寄せた。

 和也さんが長く出張に出ていると、お母様も知っているだろう。彼女は昔から息子の動向を把握したがる傾向にあったらしく、今でも探りを入れると和也さんが苦々しく話していた。
 たとえ今夜は私しかいないとはいえ、この時間に料理をした形跡がないのを彼女は責めているのだ。

「すみません。帰宅したばかりだったので」
「あら、やだ。私たち、お邪魔だったかしら?」
「いえ、そんなことは」

 連絡もないまま来られたのは戸惑うが、あからさまに迷惑だと言うつもりはない。できれば彼女とのもめ事は避けたい。
 ただお母様の方はそうでもないようだ。彼女の口調には、私へのあきらかな侮蔑が含まれている。
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