だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
 ぶたれると、ぎゅっと目を閉じる。

「紗季!」

 突然割り込んだ声に、ハッとした。
 瞼を開けると目の前には和也さんがいて、彼は横宮さんの振り上げた手を掴んでいた。
 その手を乱雑に放した和也さんが、横宮さんがよろける姿には見向きもせずに私に近づいてくる。

「そんな、だって帰りは週明けのはずだったじゃない」

 彼がここにいることが信じられず、呆然とつぶやく。

「紗季が心配で、仕事はさっさと片づけてきた」

 私の腰を片手で抱き寄せて、もう片方の手を頬に添えてくる。触れた温もりに、和也さんが本当にこの場にいるのだと理解する。

「それにしても。奇遇だな、紗季」

 そう言って、不彼が敵に笑う。
 なんのことかと、小さく首を傾げた。

「俺も、別れるつもりは微塵もない。紗季を愛しているんだ」

 聞かれていたのかと、羞恥心に襲われて視線が泳ぐ。
 くすりと笑った和也さんは、ふたりがいるにもかかわらず触れる程度に口づけてきた。
 瞬時に頬が熱くなり、勝手に瞳が潤みだす。

「紗季のこんな顔は、同性にも見せたくない」

 苛立たしげに、和也さんがつぶやく。優しい手つきで髪をサラリとなでた彼は、胸もとに隠すように私を抱き寄せた。
 張り詰めていた気が緩み、安穏を求めて自分からも彼に近づく。

 ワイシャツ越しに、和也さんの鼓動が響いてくる。その力強さに、もう大丈夫だとようやく実感がわいてきた。

 さっきから、お母様と横宮さんは言葉を発しない。ふたりにとっても、このタイミングで和也さんが帰宅したのは想定外だったようだ。
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