だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
 これまで私だけ知らされていなかったことがどうにも寂しくて、顔をうつむかせた。

 隣に座る和也さんが、テーブルに下でさりげなく手を握ってくれる。彼は私が落ち込んでいると、敏感に気づいてくれたのだろう。

「まてまて、紗季。早とちりするなよ。これはあくまで俺から和也さんに持ち掛けた話なんだからな」

 いつまでも顔をあげない私に、兄が慌て始める。

「え?」

 確認するように隣の和也さんを見ると、彼はそうだとうなずき返してきた。

「和也さんには、俺の方から口止めしていたんだ」
「どうして……あっ、私が知っちゃいけない話だった?」
「いいや。そんなことはない……ない、けどな。俺としては、紗季に知られたくなかったというか」

 なんとも歯切れの悪い物言いだ。
 兄の要領を得ない物言いに焦れる。
 じっと見つめ続けているとようやく観念したようで、重い口を開いた。

「紗季はさあ、実家が春野グループであることを、迷惑っていうか厄介だと感じがちだっただろ?」
「……うん。まあね。それで擦り寄ってくる人が、多くいたから」

 私にとって春野グループは、足枷になっていた。
 周囲は私を春野紗季ではなく、春野の娘だと見る。そのせいで、嫌な経験を何度も繰り返してきた。
 だから私はできるだけ実家の話は伏せてきたし、就職先も家業とは関係のない道を選んだ。
 
 けれどこれまで不自由なく過させてもらってきたのは事実だし、行きたい大学通わせてもらえた感謝は忘れていない。

「紗季は和也さんになかなか実家の話をしないから、心配だったんだよ。桐島グループなんて大企業の後取りに嫁ぐのに、なんの後ろ盾もない紗季が受け入れられるのかって」

 それは、お母様との対面で実感させられた。

「それに、父さんも母さんも気が利く方じゃないだろ?」

 話の行きつく先が読めず、首を傾げる。
〝気が利く方じゃない〟と表現したのは兄の私への優しさで、本当は〝関心が美紅にしかない〟と言いたいのだろうと察した。
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