だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
 兄は今夜、特別なメニューを用意してくれていた。
 特に気に入ったのは、普段の提供していないというキッシュだ。エビとアボカドが入っており、これはシェフのお母様が小さい頃から作ってくれていた家庭料理をアレンジしたものだという。

「アボカドの食感がすごくいい! お店の新メニューになるの?」

 美味しさに感動して、声が弾む。美紅も気に入ったようで、うんうんとうなずいていた。

「実はこのキッシュ、和也さんとの事業で提供するものなんだ」

 兄が誇らしげに話す。

「普段から店で出しているものでは、変わり映えがしないだろ? それに、その場でうちのシェフが調理しなければどうしたって質が落ちる。それならこれまでとはまったく違うことができないかと考えてきた」

 なにをするつもりなのかと首を捻る私に、和也さんが説明を継ぐ。

「富裕層向けの、豪華客船のツアーを企画しているんだ。その目玉として、ラ・パレット・デ・サヴ―ルに船内レストランとして出店してもらいたいと考えていたんだ。だが、なんせオーナーのこだわりが強い。シェフがその場で調理したものを提供できない上に、自分の目が届かなくなるのはだめだと、まったく譲らない」

 いかにも困ったという感じの和也さんだが、その表情はどこか楽しそうだ。兄の頑固すぎる部分を、彼も気に入っているのだろう。

「そこでレストランではなく、ビュッフェのコーナーの目玉にしてはどうかと紘一君が提案してくれた。扱うメニューは、店で出しているものとはまったく違うものばかりにするという条件付きで」

 それでいいのかという疑問が顔に出ていたのだろう。私と視線が合った和也さんは苦笑した。

「先日、会員向けに先行で予約を開始したんだが、一週間経った今日の時点ですでに七割近くが埋まっている。毎年販売しているプランだが、短期間でここまで売れたのは初めてだ。売り出しの文句にこの店の名前を入れているから、間違いなくそれが効果になっているんだろうな」

「すごい……」

 兄のお店の評判はわかっているつもりだったが、想像以上のブランド力だ。
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