だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
「紗季、疲れてるか?」
「そんなふうに見える? 大丈夫だけど」

 結婚式を挙げてから二週間ほどが経った。
 私より少し遅く帰宅した和也さんと一緒に夕飯を食べ、ふたりで協力し合って片づけを済ませたところだ。

「顔色が悪い気がする」

 隣に立つ和也さんが、私の顔を覗き込みながら額に手を添えてくる。鼓動がドキリと跳ねたのは、水に触れていた彼の手の冷たさに驚いたせいにしておきたい。

「そんなことないよ。変えたばかりのファンデーションの色が、合っていないのかも。ほら、私は元気だから」

 わざとらしく力こぶを作ってみせると、和也さんようやく表情を緩めた。

 結局、私は彼になにも聞けていない。疑念や不信感などいろいろなものをのみ込んで、なにもなかったように振る舞っている。
 はっきりさせたいけれど、彼との関係が壊れるのが怖い。そんなモヤモヤした気持ちが、顔に出てしまっていたのかもしれない。

「ならいいが」

 親指で唇をなでられて、ゴクリと喉を鳴らす。呼吸はわずかに浅くなり、頬がじわじわと熱くなってきた。

 私を見つめたまま、すっと目を細めた和也さんから視線を逸らせない。一気に緊張感が高まり、同時にふたりを取り巻く空気に甘さが滲む。

 これが体を重ねる合図なのは、私たちの間で暗黙の了解になっている。明日は仕事が休みだから、今夜は少しくらい夜更かしをしても問題ない。

 拒否するべきだろうか。彼を信頼しきれていない現状で抱き合うなんて矛盾している。
 それはわかっているのに、和也さんに求められたら鼓動は早鐘を打ち出し心が歓喜する。

 体を重ねているときの和也さんは、確実に私だけを見てくれる。愛されているという確証を得たくて、どうしても拒もうとは思えなかった。
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