だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
 今夜も残業をして帰途に就く。
 集中して時計を見ていなかったせいでずいぶん遅くなってしまったと、傘を差しながら急ぎ足でマンションに向かう。

 少し前に、和也さんからメッセージが届いていた。夕飯は、デリバリーを頼んでおいてくれたようだ。

 玄関を入ってまっすぐにリビングに向かうと、彼は食器の用意をしているところだった。

「おかえり」

 負担をかけてばかりなのに、どうして彼はそんなふうに笑みを浮かべられるのか。その穏やかな表情に、胸が苦しくなる。

「た、ただいま。食事、ごめんなさい」

 小走りだったせいで、息が軽く上がっている。

「謝ることなんてなにもない。それに、こんなに急いで」

 そう言いながら和也さんは私に近づき、濡れて額に張りついていた前髪を払ってくれた。
 優しく触れられて、落ち着きつつあった鼓動がざわめく。
「先にシャワーでも浴びてくるか?」
「後で大丈夫だから。急いで着替えてくる」
 恥ずかしさや気まずさをごまかすように、早口で言う。とにかくこれ以上彼を待たせるわけにはいかないと、慌てて自室に向かった。
 次に私が戻ってきたときには、食事の準備はすっかり整えられていた。

「和也さん、毎日遅くなってしまってごめんなさい」

 向かい合わせに座り、再び謝罪をする。

「さっきも言ったが、謝らなくていいから」

 わざとらしく眉間にしわを寄せてみせた和也さんだが、本気で起こっているわけじゃない。

「じゃあ、今夜もありがとう。美味しそう。私、もうお腹がへっちゃって」

 精いっぱいおどけた調子でそう言うと、和也さんも表情を緩めた。
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