だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
 時刻はもう、二十一時を過ぎている。彼だって待ちくたびれていただろう。

「いただきます」

 お互いの仕事の話をしながら、食事を進める。といってもほぼ私が話をする側で、誘導するのが上手い和也さんは聞き役になりがちだ。

「……和也さんの仕事は、どう?」

 彼の話も聞きたい。もしかしたら兄との件を明かしてくれるかもしれないと期待したが、直接聞き出す勇気はなくてぼんやりとした問いかけになる。

「そうだなあ。ここ数年は、海外からの観光客が劇的に増えているだろ?」
「そうだね」
「有名な観光スポットに人が集中しすぎて、弊害が生じているのも知られた話だ。紗季は、国内に空港がいくつあるか知っているか?」

 突然の質問に、目を瞬かせる。

「えっと……五十弱ってところかな?」

 四十七ある都道府県に近い数だろうと予想して答える。

「残念。九十以上だ」
「ええ⁉」

 予想外の答えに驚いて、目を見開く。
 そんな私を、和也さんがくすりと笑った。

「多いだろ? それを生かさない手はない。各地に眠っている観光資源を見つけ出して、地方経済を活発化させていきたい。そんな発想で、新しい事業が動きだしているんだ」

 私が本当に聞きたかった話とは違ったが、楽しそうな内容に体が前のめりになる。

「もちろん、空港がない地域もある。それなら、他県の空港からそこへ行くまでの行程を楽しめるものにできないか。そんなふうに問いかけたら、若手の社員らが率先して動きだしている」

「たとえば、どんな?」

「そうだなあ。川下りで長距離を移動して、途中で名物のアユの塩焼きを食べながら、という案もあったな」

 思いもよらない移動方法に、目を丸くする。

 新しいものを模索するのはいかにも大変そうだが、話を聞いているだけもワクワクする。
 想像でしかないけれど、和也さんの会社は社員が自由に動ける雰囲気がありそうだ。今の私の職場もまさしくそうで、おかげで仕事が楽しくて仕方がない。
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