だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
 会社を後にして、電車に乗り込む。幸い雨は止んでおり、窓の外を眺めながら和也さんとどんな話し合いになるのかと想いを馳せた。

 きっと悪いようにはならない。根拠はないけれど、これまでの彼の様子を思い浮かべてそんなふうに感じていた。

 待ち合わせの駅に着き、改札を出る。彼とはここのロータリーの端で待ち合わせて、タクシーで移動する予定でいた。

 約束した時間までにまだ少し余裕があることにほっとしながら、周囲を見回した。ちょうど帰宅ラッシュの時間のため、人の行き来が多い。
 言われていた辺りに目を凝らす。

「あっ、いた」

 彼の姿を見つけて、はやる気持ちを抑えながら一歩を踏み出す。

 けれど、その隣にいる女性の存在に気づいてギクリと体が強張った。

「横宮さん……」

 和也さんと一緒にいたのは、結婚式で顔を合わせた横宮さんに間違いない。彼の幼馴染で、縁談の話が出ていた女性だ。
 その横宮さんが、どうしてこの場にいるのか。

 私がこそこそする必要はないのかもしれないけれど、なんだか真剣な顔をしているから平然と顔を出すのは憚られた。

 ふたりの背後に回ってそっと近づき、様子をうかがう。

 横宮さんのほっそりとした白い手が、和也さんの腕に添えられているのに気づいてドクリと鼓動が嫌な音を立てた。

「もう莉緒のワガママは聞いてやれない」

 その手を、和也さんが優しい手つきでどけさせる。

「莉緒って、呼んでいるんだ……」

 そういえば、彼女の方も〝和也さん〟と呼んでいたはず。
 幼馴染なら、そんな呼び方をするのもおかしくないかもしれない。
 けれど大人になったふたりの距離の近さは、私の胸をしめつけた。
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