だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
 友人との話を終えると、次は会社の同僚がやって来た。

「今日は来てくれてありがとうございます」

「おめでとう、春野さ……じゃなくても、もう桐島さんね。それにしても、すごく綺麗ね」

 私の直属の上司である藤堂(とうどう)さんが、真っ先にお祝いの言葉をかけてくれる。

 勤め先のアパレルメーカーは、女性社員の割合が比較的大きい。式に招待したのも、たまたま女性ばかりになった。

 少し前に新ブランドを立ち上げるプロジェクトが動きだし、私もメンバーに選ばれている。藤堂さんはチームの責任者を務めている人だ。

 彼女が今日纏っているのは、ブルーグレーのドレスだ。すっきりとしたシルエットが清楚な印象を与える。
 これはうちの会社が扱っているもので、商魂たくましい藤堂さんが『自社製品を宣伝するわよ』と冗談まじりに息巻いていたのを思い出した。

「やっぱり桐島さんくらいスタイルがいいと、なにを着ても似合うわね」

 そんなことはないと、手と首を小さく振って否定する。

 背中の中ほどまである黒髪を、今日はアップにして複雑に結ってある。わざと残したひと筋の巻いた横髪が、私の動きに合わせて視界の端で揺れた。

「私の着ているこのドレスも、身長の高いあなたの方が絶対に似合うもの。あっ、でも桐島さんは肌が白いから、もっと濃い色合いの方がいいかも」

 背をわずかに後ろにそらせながら、藤堂さんが私の全身を見つめてくる。

「綺麗な黒髪だから、和服にも映えるのよねえ。あなたは目鼻立ちがはっきりした美人だし、結局なにを着ても似合ってしまうんだろうけど」

 彼女は無意識だろうが、思わぬ賛辞にこちらはたじたじだ。もうやめてほしいと、ほかの同僚たちに視線でヘルプを訴えた。

「チーフったら、そのあたりで勘弁してあげてくださいよ」
「そうそう。いくら桐島さんが主役だといっても、そこまでほめられたら困っちゃいますから」

 仕事熱心な藤堂さんが、服に関する話題に夢中になるのはいつものことだ。それに慣れている周囲が、気安い口調で止める。
彼女らに追随するように、私は何度も首を縦に振った。
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