だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~

本音を引き出したい SIDE 和也

「離婚してください」

 食事をキャンセルした紗季を心配して、慌てて帰宅した俺に向けられた彼女の言葉に絶句する。

「急に、どうしたんだ?」

 不用意に彼女を刺激しないよう、努めて穏やかに聞き返した。
 結婚式以来、紗季がたまに思い詰めたような顔を見せることには気づいていた。
 彼女は少し前に新しい仕事を任された上に、式の準備や引っ越しなど忙しくしており、疲れもたまっていたはずだ。
 仕事の悩みもあるかもしれず、今夜は彼女の話をじっくりと聞こうと考えていたが、どうやら違ったらしい。

「とりあえず、食餌のキャンセルは体調不良が理由ではないんだな?」

 念のため尋ねてみれば、彼女はそうだとうなずいた。

「職場でなにかあったのか?」

 俺から食事に誘った時、紗季はうれしそうな顔を見せていたはず。それから今までの間に、いったいなにがあったのか。
 この状況に仕事は関係ないだろうと察しがついていたが、あえて問いかけたのはその間に自分が落ち着きたかったからだ。

「仕事は順調そのもの。新しいプロジェクトもスケジュール通りに進んでいるし、忙しさが苦にならないくらい充実してる」

 すっかり沈みきっていた紗季の瞳が、仕事の話になるとわずかに輝きを取り戻す。やはり理由は違うところにあるようだ。
 紗季の溌剌とした様子にほっとすると同時に、彼女には俺がいなくとも生きていく強さがあるのだと、嫉妬のようなどす黒い感情が湧き上がりそうになる。

 打ち込めるものがあり、充実した生活を送っていた紗季が俺のプロポーズに応じてくれたのは、ふたりの間に確かな愛があったからなのは疑っていない。協力し合っていけば仕事も家庭も両立していけると、互いに信じていた。

 けれど実際に一緒に暮らしてみたら思っていたのと違ったと、彼女には後悔があったのだろうか。

 結婚をすれば家庭に拘束される時間が増えるのは当然で、仕事を生きがいのように感じてきた彼女にとってはそれがネックになっていたのかもしれない。
 もちろん俺はいつだって紗季が快適に過ごせるように気を配ってきたが、独りよがりになっていなかったか。

 俺との結婚生活が仕事の邪魔になっている可能性が否定できず、彼女の表情の変化を見逃さないようにうかがった。
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