だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
「でも私はいつだって仕事ばかりで、家のことも満足にできていない。そんなの、和也さんに申し訳なくて」

 このタイミングで言うには、どうにも納得のいかない理由だ。

 たしかに食事を作れない夜もあり、彼女はそれを負い目に感じている節があった。俺に責める気などまったくないが、紗季としては後ろめたいのだろう。
 そもそも家事は紗季だけに押しつけるものではないし、家のことに手が回っていないというのなら俺にも責任はある。そこは気に病んでほしくなかった。

 わずかに泳いだ彼女の視線に、今の言葉が理由のすべてではないと語っているのを確信しながら慎重に語りかける。

「そんなことは問題ない。いつも言っているが、家事はやれる方がすればいいんだ。俺ももっと協力するし、なんならすぐに業者を手配する」

 ふたりともが他人がプライベートエリアに入るのが嫌だと感じていたため、これでは自分たちでやりくりしてきた。が、それを理由に別れを切りだすのなら、躊躇する必要はない。

「そ、そこまでしなくても……。とにかく、私ではあなたを支えられないの」

 では、誰ならそれができるのか。そんな疑問が浮かんだのは、彼女が明らかに隠し事をしているようだと感じたからだ。

「至らない私なんかより、和也さんにふさわしい人はいくらでもいるわ。だから、離婚してほしいの」
「それはできない」

 きっぱり言いきると、彼女はうつむいて唇を噛みしめた。

「私から言いだしたことだから、慰謝料だって払う。だから」

「できない。俺は紗季を愛しているんだ。離婚なんて応じられるわけがない。それとも、紗季は俺に嫌気が差したのか?」

 俺に向けられた彼女の縋るような目に、たしかな恋情が見て取れたことに安堵する。
 それなら、なにが原因だというのか。
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