だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
「嘘ばっかり」

 ぼそりとつぶやいた彼女の言葉を、正確に拾う。

「俺は一度だって、紗季に嘘をついていない」

 事実を告げているのだから、疚しさは微塵もない。仕事上の言えない話はあるが、紗季をだますような真似はいっさいしていない。
 それにもかかわらず、彼女は明確な疑いの視線を俺に向けてきた。
 その意志の強い目に、感情の昂りが見て取れる。

「私との結婚は、兄のレストランが目的だったんでしょ? それに、横宮さんはなに? 公衆の面前で親しげに過ごしていたじゃない」

 口調がわずかに荒くなる。これが紗季の本音なのかと悟った。

 感情が抑えきれず、つい勢いで口走ったようだ。言いきったそばから「ごめんなさい」と小声でつぶやき、後悔するように口もとを手で覆った。

「仕事に関して、契約の関係で詳細は明かせない。だが、それはあくまで後からついてきた話だ。決して俺たちの結婚の理由ではない」

 事業に関しては、彼女の耳に入ることも想定していた。相手との取り決めがあるため俺から積極的には話していないが、紗季が知ったときには応えられる範囲で打ち明けるつもりでいた。

 この話を、彼女がなぜそこまで悪く捉えているのかが引っかかる。

「それから、莉緒との間にやましいものなどなにもない」

 予感はあったが、やはり紗季は待ち合わせ場所で俺が莉緒と一緒にいたのを目撃していたようだ。
 紗季の瞳が、頼りなさげに揺れる。今すぐ抱きしめたいが、疑われている俺がそうしても彼女を安心させられはしないだろう。逆に、もう一度拒絶されたら俺が辛い。
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