だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
 さすがにここ数年は多忙で、莉緒と顔を合わせる機会はめっきり減っている。

 母からは、どうやら莉緒に彼氏ができたらしいという話も聞いていた。思春期特有の、年上に対する憧れはようやくなくなったようだと安堵したものだ。

 しかし、莉緒は引き下がってなどいなかった。フリーになると偶然を装って俺の前に現れ、自分を結婚相手に選んでほしいと直訴するようになったのだ。
 さっきも莉緒は会社の前で待ち伏せていたらしく、タクシーで追って来た。

 紗季と出会ってからは、莉緒が会いに来てもきっぱり突き放していた。それまでだって、言葉と態度で繰り返し付き合えないと伝えている。

「たしかに、紗季を待っている間に莉緒が来てしまったから少し話をしていた。紗季もあの場に来ていたんだな?」

 うなずく彼女に、さらに続ける。

「莉緒に会うのは結婚式以来だし、彼女とはなにもない。俺にとって彼女は、妹のようなものでしかないんだ」

 もはや、妹とすら思えなくなっているが。

「和也さんは妹とキスをするんだ」

 薄々感じていたが、それも見られていたようだ。

「未遂だ。誓って嘘は言っていない。紗季のいた場所からどう見えていたかわからないが、寸でのところで避けた」

紗季には疑わしそうな目を向けられているが、これだけは誤解されたくなくてきっぱりと否定した。

「誤解させたのなら、悪かった」

 隠すことはなにもない。
 とはいえ莉緒はあまりにも強引で、力づくに迫ってきた。角度によってはそんなふうに見えたのかもしれないと反省する。

 どうあがいても俺が靡くことなどないのに、あまりにも必死になる彼女が哀れだった。
 母が彼女を実の娘のようにかわいがっているのも、莉緒が俺に固執する一因になっているのだろうと思う。
 迷惑も顧みない言動には辟易させられるが、莉緒への同情があったのも否定できない。
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