だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
「いいや、違わない」

 戸惑う彼女に一歩近づく。紗季が反応する前に、今度こそその柔らかな頬に手を添えた。
 大きく目を見開いてうろたえる紗季が、かわいくて仕方がない。俺にそんな趣味などなかったはずだが、こんな彼女を見ているといじめたくなる。とことん甘く迫って、恥じらわせてやりたい。

「すべては俺が悪い。それでも俺は、もう紗季のいない人生など考えられないんだ」

 どんな手を使ってでも彼女を俺につなぎ留めておく。そう誓いながら懇願するように訴えた。

 彼女の瞳がわずかに潤む。それは羞恥心からなのか、それともほかの理由からか。
 なんであれ、彼女の心を揺さぶるのはいつだって俺でありたい。

 これまでは仕事を楽しむ彼女の邪魔になってはいけないと、遠慮する気持ちが大きかった。
 しかしそのせいでこんなすれ違いが生じていたのなら、もう控えめでいる必要などないだろう。

「これからは少しの疑念も抱かせないように、紗季にとことん俺の気持ちを伝えていく。言葉でも、それ以外でも」
「そ、それ以外……」

 彼女がなにを想像したのかは、朱の走った頬を見れば一目瞭然だ。夫婦生活について考えたのだろう。
 だがそれは、もう一度彼女が俺を心から受け入れてからだ。

「愛してるんだ」

 彼女の瞳が激しく揺れる。迷いが生じている今を、逃すはずがない。

「三カ月だ」

 今度はなにかと、紗季が不安そうな目で俺を見つめてきた。

「これから三カ月の間に、紗季に俺の愛が伝わらなかったら、そのときは離婚に応じよう」

 ひゅっと息をのんだ紗季に、顔を近づける。少しでも身じろげば、口づけられてしまいそうな距離だ。

「みすみす逃すつもりはないけどな」
「わ、わかったから」

 気迫で押し切った自覚はある。強気に振る舞いながら、なんとか彼女に許されたと内心で安堵していた。

「紗季の俺への信頼を、絶対に取り戻すから」

 彼女に宣言しながら、華奢な体を腕の中に閉じ込めた。
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