だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~

疑惑の出会い

 会社に向かう電車に揺られながら、和也さんとのやりとりを思い起こす。

『莉緒との間にやましいものなどなにもない』

 てっきり元恋人かと思い込んでいた横宮さんとの関係を、彼がきっぱり否定してくれたのにはほっとした。
 口づけたように見えた場面も、いっさい動揺なく状況を説明する和也さんに、角度のせいでそう見えただけだととりあえず納得している。

 ただ、聞けば聞くほど彼女と和也さんの関係は近い。自然に名前で呼び合うのは幼いころからの付き合いがあるからだと理解はできるが、心が追いつかない。

 和也さんの気持ちはどうであれ、見る限り横宮さんが彼に今も想いを寄せていることが私を悩ませる。
 彼がいくら拒絶しても、横宮さんは母親同士のつながりもあって簡単に近づけてしまえるのだ。

 そんな姿を周囲に目撃されたら、不貞だと勘違いされるかもしれない。そう考えるだけで憂鬱になる。
 聞けば、横宮さんは和也さんの会社まで会いに行ったこともあるのだという。もしかして、もともとふたりは親密な関係にあると勘違いしている人がいるのではないか。

 結婚後も続く仲を、周りはどう捉えるのか。
 なにも知らないだろう、私への同情?
 それとも、堂々と不貞をする和也さんへの非難?
 どちらにしろ、誰にとってもプラスにはならないだろう。 

「はあ……」

 重いため息が漏れる。

 兄さんの件については、結局わからないままだ。契約の関係で明かせないと言われたら、それ以上聞くわけにもいかない。
 私たちの結婚に関して、彼は政略的な思惑を否定した。その言葉を信じていいのだろうか。

「どうしてこうなっちゃたんだろう」

 ぽつりとこぼした愚痴は、電車の騒音に紛れていく。
 そっと息を吐き出しながら、和也さんと出会った当時を思い出していた。




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