だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
 彼とは、大学生の頃に向こうから告白されて交際を始めた。

 同窓生で、同じテニスサークルに所属している仲だ。共通の話題が豊富で会話も弾む。明るく誰とでもすぐに打ち解けられる真人には、もともと好印象を抱いていたのもあり、彼の気持ちを受け入れた。

 思った通り、ふたりの仲は上手くいっていた。私にとっては初めてできた彼氏で緊張しがちだったが、明るい真人が常に場を和ませてくれる。

 でも、就職をしてからふたりの関係は少しずつ変わっていった。会う機会は当然減っていくし、久しぶりに顔を合わせると、自然と仕事の話が多くなる。

 家業は兄が継ぐため、私はまったく関係のないアパレルメーカーに就職した。もとから興味のある分野だったから選んだ会社だ。
 これまでとは違って、職場には私を春野の娘だと知る人はいない。だから、ありのままの私を評価してもらえる。それがとにかく心地よかった。

 ようやく自分らしくいられると安堵したのは、それ以前の状況があまりにも不本意なものだったからだ。

 私の実家が春野グループだと知られていた高校生の頃までは、下心ありきで近づいてくる人も少なくなかった。

『兄が、春野に就職したいらしくって』
『なにか、友人枠のサービスくらいあるでしょ?』

 そんな要望には応えられないと返せば、罵倒する人もいる。さらに、春野を貶めすような話を吹聴された。
 小さなコミュニティーでの出来事は、世間に広まりはしない。それはよかったが、うんざりするような出来事が多くて心が疲弊していった。
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