だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
 大学は地元の人があまりいかないところがいいと、実家を出て通った。
 そして卒業後は、家業とは関係のない仕事に就いた。実家への反発心こそなかったが、春野紗季個人を見てほしいと自分から強く望んで手に入れた生活だ。

 元カレの真人は卒業後、保険会社に就職した。どうしてもやりたかった仕事ではなく、採用されたから入社したという消極的な理由からだ。
 動機はどうであれ、彼の持ち前の明るさを生かせばきっとうまくやっていけるだろうと私は考えていた。

 けれど真人は、自分より優秀な人物に嫉妬するようになっていく。他人の成功を妬み、失敗の理由を誰かのせいにしてばかりだった。学生の頃の私には見抜けていなかったが、彼にはそういう弱い一面もあったようだ。

『お前の仕事の話なんて、聞きたくないんだよ』

 彼に尋ねられて答えただけだというのに、そんなふうに声を荒らげることが増えていく。
 私の話し方にも問題があったかもしれないけれど、就職してまだ一年目で多忙な日々を送っていた。だから、彼を気遣う余裕はなかった。

 このままではふたりの関係がダメになってしまうとわかっていたのに、どうにかしようという気力がわかない。関係の悪化を、焦る気持ちすら薄れていった。

『いいよな、紗季は。自分の望む仕事ができて』

 それを得るまでの私の努力などないものとして、嫉妬や妬みの感情をこちらにまで向けられる。
 きっと彼は鬱憤が溜まっていたのだろう。それは理解できるが、もう一緒にいたいとは思えなくなっていた。

 そんな矢先のこと。話をしようと真人のマンションを訪ねたところ、彼は同僚の女性を部屋に連れ込んでいた。しかも、いかにも事後というありさまだ。

 言い訳を聞く必要はないと判断して、私はその場で別れを告げている。その日を境に彼からの連絡も途絶え、縁は切れたはずだった。

 でも、後にどこから実家が春野グループだと聞きつけた真人が、別れて半年ほど経っているというのに私につきまとうようになった。
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