だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
「なら、既成事実を作るまでだ。さすがに子どもができたら、結婚しないわけにもいかないだろう」

 信じられない言い分に、目を見張る。
 なおさらここで連れていかれるわけにはいかないと、必死に抵抗した。

 でも、大人の男の力には到底敵わない。
 助けを求めて、もといた大通りに視線を向ける。歩いている人はたくさんいるというのに、誰もこちらを見ていない。皆一様に、足早に通り過ぎていくだけだ。

 真人が、再び私の腕を引いて歩きだす。振り払おうとしたが、無駄な抵抗に終わった。

 大通りからどんどん離れていき、焦りが募る。
 誰かと助けを求めてもう一度振り返った先で、ようやくひとりの男性と目が合う。視線で必死に窮状を訴えると、男性は目を細めた。

 彼が足早に近づいてくる姿を目にして、涙が滲む。第三者に気づいてもらえたのだから、きっともう大丈夫だ。

「なにをしている」

 突然声をかけられた真人が怯んだ隙に、駆けつけてくれた男性が私の腕を引く。思わず手を離してしまった真人は、盛大に舌打ちをした。

「誰だよ。俺たちの邪魔をするな」
「どう見ても、彼女は怖がっていたようだが」

 私を背後に庇った彼が、チラリとこちらを見る。声を出すのも難しくて、その通りだと何度もうなずいた。

「お前には、関係ないだろ」

 真人の口調が、どんどん乱暴になっていく。

「埒が明かないな。警察を呼ぶ」
「け、警察」

 悪いことをしている自覚はあるのだろう。途端に狼狽えた真人の目の前で、男性はスマホを取り出して操作し始めた。

「ま、待て。誤解だ」

 既成事実を作るとまで言っておいて、彼に覚悟はなかったのか。
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