だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
「誤解などなにもない。おとなしく警察に突き出されるか、もう二度と彼女の前に現れないか。選択肢はふたつだ」

 真人が悔しそうに唇を噛む。

「お前には関係ないだろ。俺と紗季の話に、割り込んでくるなよ」

 開き直って怒りの形相で私たちを睨みつける真人に恐怖して、体が小刻みに震えた。

「引き下がる気はないと?」

 後ろ手に、男性が手を握ってくれる。私が怖がっていると、気づいたのだろう。緊張に冷たくなっていた手に、彼の温もりがじんわりと伝わった。
 不思議なもので、初対面の男性だというのに手を握られても嫌悪感はない。それは彼の身なりのきっちりとしており、それだけで信頼ができると思えたからだろうか。不思議と安心感を与えてくれる人だった。
 おかげで、私も少しずつ冷静さを取り戻していく。

「だから、これは俺たちの問題だ」

 興奮しきった真人に、男性は冷静な返しをしている。
 見る限り、彼のスーツは高級なブランド物だ。きっと立場のある人なのだろう。こんなところで騒ぎになれば、この人に迷惑をかけてしまう。

 勇気をだしてもう一度、自分で真人を突き放そう。そう考えていた時、真人の背後に人影が現れた。

「どうかされましたか?」

 声に反応して、真人が振り返る。

「警察か」

 落ち着きをなくした真人が、男性とやってきた警察官の間で視線を行き来させる。

 助かったがタイミングがよすぎる。そんな疑問が私の顔に出ていたのだろう。

「知り合いの警察官に連絡したんだ。ちょうど非番だったようで、すぐに仲間に連絡してくれたおかげで早かったな」

 短時間でそんな冷静な行動を取れるのには驚きを隠せない。

 それからしばらくして、ほかの警察官も駆けつけてきた。そのうちのひとりが、彼と親しげに言葉を交わす。おそらくこの人が知り合いなのだろう。

 簡単に状況を把握したところで、抵抗する真人が連行されていく。
 私たちも別で話を聞かれることになったが、助けてくれた彼も快く応じて私に付き添ってくれた。
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