だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
「ご迷惑をおかけしました。助けてくれて、本当にありがとうございました」

 ようやく解放されて、男性にあらためてお礼を伝える。
 恐怖からか、それとも安堵からか。私の声は、まだわずかに震えていた。

「大丈夫か? 誰か知り合いを呼んだ方がいい」

 そう言われても、パッと思いつく人が浮かばない。兄は平日のこの時間はまだ仕事中だろう。友人や同僚もそうかもしれず、声をかけるのを憚られた。

「い、いえ。大丈夫ですから」

 そう言った傍から、ぐらりと体が揺れる。
 もう危険はなくなったと理解して、力が抜けてしまったようだ。

 バランス崩した私を、地面に倒れ込む前に彼がすかさず支えてくれた。

「ひとりにできない。誰かと連絡がつくまで、俺が一緒にいるから」
「でも、迷惑では……」

 正直なところ一緒にいてくれるのはとても心強いが、見ず知らずの人にそこまで図々しくなれなかった。

「大丈夫だ。今日はもう帰るだけだから」

 それなら、甘えてしまってもいいだろうか。

「でしたら、お礼にお茶に誘ってもいいですか?」

 腰に添えられた逞しい腕に胸を高鳴らせながら尋ねる。
 しばらく一緒にいてほしい。そう直接言うのはなんだか恥ずかしくて、ごまかすように彼を誘う。もちおん、お礼をしたい気持ちもあった。

「ああ、かまわない」

 見た目の印象通り、聡明な人なのだろう。すぐさま私の意図を察して、にこやかに返してくれた。
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