だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
 それから私たちは、近くの喫茶店に落ち着いた。
 ふたりともコーヒーをオーダーして、ようやくひと息つく。

「さっきは、本当にありがとうございました」

 震えもすっかり治まり、自己紹介も兼ねて名刺を渡す。なんだかビジネスライクになってしまったと彼が受け取る前に気づいたが、引っ込めるには一歩遅かった。
 彼の方も、私に合わせて名刺をくれた。

「桐島和也さん……って、桐島グループ⁉」

 さすがにその名前は知っている。しかも、肩書には傘下の観光分野を担う会社の社長とある。名字から察するに、この人は創業者の親族なのだろう。

「す、すみません。お忙しかったんじゃないですか?」

 誰が相手もでもまずそこを配慮するべきだったが、動揺してすっかり抜け落ちていた。彼のような立場なら、分刻みのスケジュールをこなしていたかもしれない。

「大変な目に遭った女性を、放っておけるわけがない。それに、今日は本当にもう予定がないから大丈夫だ」

 ようやく落ちつきを取り戻した私は、彼に尋ねられるまま真人との詳細を明かしていた。
 ただし、私の実家に関しては伏せておいた。それを話す理由がなかったからだ。

「未練を残している男は、その後もしつこくしてくる可能性が高い。身辺に十分に気をつけてほしい。あの男の勤め先には知り合いがいるから、俺の方から上に知らせておく」
「なにからなにまで、本当にありがとうございます」
「大したことじゃないから、かまわない。それより」

 手渡した私の名刺に目を向けながら、彼が続ける。

「バイヤー担当というと、国内を飛び回ることもあるじゃないか? なかなか忙しそうだな」
「忙しいのはたしかにそうなんですけど、伺った先で縁がつながるのも楽しいです」

 観光会社の社長という、彼の方こそ国内外を飛び回る生活をしていそうだ。

 それからも、聞き上手な桐島さんに誘導されるまま時間を忘れて話し込んでいた。
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