だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
『もしもし、紗季さん?』

 桐島さんに助けてもらってから二週間ほど経った夜に、あちらから電話がかかってきた。

「はい」

 初対面のときから名前で呼ばれているのは、おそらくあの場で真人がそう呼んでいたからだろう。ドキドキする胸もとを押さえながら、通話に応じた。

『西山真人の件で報告がしたいんだが、近いうちに予定を開けてくれないか?』

 この電話で話してくれてもかまわない、と言いかけた口を閉じる。

 楽しいひと時を思い出して、もう一度彼に会いたいと思ってしまった。
 桐島さんが容姿の整った男性だとか立場のある人だとか、そんなものは関係ない。彼は身分をひけらかすことはまったくなくて、ただ純粋に会話がおもしろかった。

 真人の関連で呼び出されるのなら、決して明るい話にはならない。それがわかっていても、彼と顔を合わせて話を聞くと決めた。

 その二日後の仕事上がりに、桐島さんに連れられてカジュアルな洋食レストランに来ていた。
 高級すぎず、仕事帰りの服装でも入店しやすいところがありがたい。

 気遣い屋な彼は、いきなり真人の話を切り出しはしない。かといって無言を埋めるために天気を話題にすることもなかった。

「今は実際に体験ができるツアーが人気なんだ」

 桐島さんが、夏休みに人気の観光旅行について話を聞かせてくれる。

「へえ。シュノーケリングとか、イルカに会えるとかですか?」

 夏と言えば海という単純な発想からそう尋ねると、彼はそういうのももちろん人気だと穏やかな笑みを浮かべた。

「ほかにも、職場体験のようなものが人気かな。それから工場見学のような、製造工程を見られるものも」

 そういえば、私の友人の中にも工場見学が趣味の子がいたとうなずき返す。子どもたちにも人気がある企画だろう。

 彼の聞かせてくれる話しはどれも興味深いし、私の話も熱心に聞いてくれる。
 気が合うというのは、こういう関係を言うんじゃないかと納得した。共通の話題などなくても、桐島さんと過ごす時間はとにかく充実していた。
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