だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
 店の前で兄と別れて帰途に就く。

 休日は自宅でゆっくりと過ごしていたい私は、まっすぐに帰宅してソファーに寝そべりながらファッション雑誌をめくっていた。

 次第に外は薄暗くなっていき、夕飯をどうしようかと考え始める。そのタイミングで、桐島さんから電話がかかってきた。

「もしもし」
『紗季さん。今夜の予定は空いているか?』

 単刀直入に尋ねられて、若干面くらう。いつもの彼なら、「今、大丈夫か?」とこちらを気遣っていたはず。

「……空いてるけど?」

 何度も顔を合わせるようになり、私の口調は少しずつ崩れてきた。

『それなら、一緒に食事に行かないか?』

 急な話だが、彼からの誘いはうれしくて可能な限り応えたい。

「もちろん。楽しみです」

 通話を終えて、慌てて支度をする。
 クローゼットを開けて、少しでもかわいく見える服を探す。兄に会いに行った時は大違いだ。
 外は蒸し暑いから、パステルブルーのフレンチ袖のトップスに決めた。それにネイビーのタイトスカートを合わせる。

 準備が整い、早めに家を出た。
 桐島さんは、私のマンションから少し行ったところにある駅まで車で迎えに来てくれるという。

 到着したのは約束の時間までまだ余裕があったというのに、彼はすでに待っていた。

「お待たせしました」

 スーツを着ているということは、仕事上がりなのかもしれない。

「じゃあ、行こうか」

 彼に促されて、車に乗り込む。
 乗せてもらうのは初めてではないけれど、革張りの高級車は未だに緊張する。

「今日は仕事だったみたいだけど、疲れていないの?」

 会えるのはうれしいが、彼に無理はさせたくない。

「まったく。むしろ紗季さんに会うと癒されるくらいだ。疲れも吹き飛ぶよ」

 なんてことを言うんだと、気恥ずかしさに頬が熱くなる。
 こういうセリフをさらりと言ってしまえるのは、大企業の社長であるという彼の立場のなせる業なのか。その裏の意味を勘繰りたくなるが、たぶん社交辞令のようなものだろう。
 勘違いをしちゃいけないと、高鳴る胸をぐっと押さえた。
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