だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
 次は、親を紹介しなければならない。
 それまでには、実家について和也さんに話しておく必要がある。

 実家の力に頼るつもりは毛頭ないものの、春野グループという後ろ盾がプラスになるのも事実。彼の家柄を考えれば、むしろ少しでも釣り合いが取れている方がいいに決まっている。

 告白が遅くなったとしても、決して悪いようにはならないだろう。
 そんなふうに考えていたある日。不意打ちで和也さんのお母様と顔を合わせる機会がやってきた。

 彼のマンションにおじゃましてふたりで過ごしていたところに、お母様が前触れなくやってきたのだ。
 和也さんは私に遠慮して、お母様を室内に上げることなく帰そうとしていたが、さすがに申し訳なくて大丈夫だと止めた。
 そして急遽、顔を合わせることになる。

「結婚をしているわけでもないのに、もう我がもの顔で和也のマンションにいるなんてはしたない」

 お母様にどう思われるだろうかと緊張している中、開口一番から攻撃的に言われて頭が真っ白になる。手に汗が滲み、不安にのみ込まれる。

「す、すみません」

 なんとか謝罪を搾りだしたが、向かいに座ったお母様からはひたすら厳しい視線を向けられる。

「俺が彼女をここへ招待したんだから、そんな言い方はないだろ。嫌味を言うためだけに来たのなら、さっさと帰ってくれ。紗季、母さんが悪かった」
「あなたは黙っていなさい」

 初対面から拒絶されてうつむく私を、和也さんが庇う。それがお母様は気に食わなかったのだろう。彼女の口調が、ますます厳しくなった。

「和也は桐島家の跡継ぎであり、グループの後継者なんですよ。そんな息子の結婚を、惚れた腫れたで決められるわけがありません。名家の女性との縁談を考えているというのに、和也も和也よ。勝手な事ばかりして」

 少し前にお父様は特に反対していないと聞いていたため、私との結婚はてっきり許されているものとばかり思っていた。

「そんな話は俺も父さんも承知していない。母さんが勝手に騒いでいるだけだろ。不愉快だ」
「いいえ。ふたりには、ここできっぱり別れてもらいます。それを見届けるまで、私は帰りませんからね」

 私のせいで親子関係が悪くなっていくのが心苦しい。これ以上やりとりをヒートアップさせてはいけないと、考えを巡らす。
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