だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
 お母様は〝名家〟と言っていたくらいだから、相手の家柄を気にされているのだろう。会社同士のつながりまで求められたら私だけではなんとも言いようがないけれど、少なくとも春野グループは後ろ盾になるはず。

「あの」

 心配そうな和也さんの目と、不機嫌なお母様の視線が私に向く。
 怯みそうになっていると、和也さんが私の手に自身の手を重ねてきた。

「名家と言えるかどうかはわかりませんが、実は、私の実家は飲食店を経営している春野グループなんです」

 無意識に手に力がこもる。
 
 実家の力をこんな形で使うなんて不本意だ。
 関わらないように自分から避けてきたというのに、頼るものがそれしかないのが情けなない。

 これまで自分の力でがんばってきたつもりだ。
 大学も朱就職先も、私自身が望んで努力した結果、希望を叶えることができた。それが私の自信になっていたはずなのに、残念ながらこの場ではなにも役に立っていない。
 和也さんの隣に立つにはただの春野紗季では無理だと突き付けられたようで、胸が苦しくなった。

 でも、私の小さなプライドなんて関係ない。とにかく和也さんとの仲を認めてもらうには、なりふり構っていられなかった。

「……私自身は、経営にまったくかかわっていませんが」

 私の出自がどうであろうと、そんなことで和也さんはなにも変わらないはず。そう信じているものの、これまで話せていなかった後ろめたさもあって彼の方を見られない。

 私を睨みつけていたお母様が、ふっと肩の力を抜く。彼女はもう険しい顔をしていなかった。
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