だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
 その先で、再び兄のお店の名前を耳にした。

「社長が押していた案件も、ようやくまとまりそうだな」
「ああ。ラ・パレット・デ・サヴ―ルの料理の提供が叶うんだ。これ以上ない話題性だよ」

 話をしていたのは、和也さんの会社の人たちだった。私と目が合った彼らは、軽く会釈をしてすっと視線を外した。

「どういうこと……?」

 あの人たちの言う〝社長〟とは、間違いなく和也さんだろう。

 彼の事業と兄のレストランにつながりがあるなんて、初めて知った。ふたりからそんな話など一度も聞いていない。

 私の知らないところで、なにかが起こっているのか。掴みどころのない正体不明な不安が、心の中にじわりと広がっていくのを感じた。

 私と和也さんはあくまで恋愛結婚で、両家の会社の都合はまったく絡んでいない。
 たしかにお互いを両親に紹介する際には、それぞれの実家の家業についても知らせている。
 けれど、提携を結ぶとか協力体制を築くといった会社同士の話しなんて、一度も話題に上っていない。

 それは春野グループに限ったものではなく、兄個人の事業についても同じだ。

 兄はレストランの経営に関して、〝唯一無二〟という点に強いこだわりを見せていた。どれほど良い条件を提示されても決して支店を出そうとはしなかったし、お店以外の場での料理の提供だってすべて断っていたはず。

 私と和也さんが結婚したのをきっかけに、兄に心境の変化があったのだろうか。

 経営方針の決定権は、オーナーの兄にある。まったく関わりのない私に、口をだす権利はない。もちろんそれは理解しているし、そうするつもりもない。

 ただ、可能な範囲で私に話してくれてもいいのにと思ってしまう。何度か顔を合わせてきた兄なら教えてくれそうなものなのに、のけ者にされた気分だ。

 和也さんだってすでに一緒に暮らし始めているというのに、この件についてはいっさいなにも話してくれていない。

 仲のよいはずの兄と、夫の薄情さを不満に感じつつ、ふと別の可能性にもたどり着く。

 もしかして、私には言えない理由があったのかもしれない。しかも意図的に隠しているのだとしたら、よい内容ではないと勘繰ってしまう。
< 6 / 141 >

この作品をシェア

pagetop