だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
 思わぬ話を耳にして無意識に気を張っていたようで、喉がカラカラだ。
 係の人から水の入ったグラスを受け取ってひと息ついた。

 ぐるりと視線を巡らした先で、和也さんがさっきとは違う人たちと過ごしているのを見つける。
 その中心には兄の姿があった。周囲にいるのは、兄の部下のようだ。彼らが一緒に談笑する様子は歓迎すべきだろうに、なんだか手放しで受け入れられない。

 両家の招待客は次第に境界線が曖昧になり、私の友人たちは気づけば和也さんの知り合いと楽しそうに会話をしている。
 こんな晴れの日に憶測だけで暗い気分になってはいけないと、嫌な考えを頭の隅へ追いやった。

「紗季」

 会場内をぼんやりと眺めていた私に、横から声をかけてきたのは父だ。隣には、二十歳になったばかりの妹の美紅(みく)もいる。

「結婚、おめでとう」
「ありがとう」

 いろいろな感情はひとまずのみ込んで、にこやかに返す。

 父の視線が、会場の一角に向けられた。それを辿ったところ、どうやら和也さんたちが話している辺りを見つめているようだと気づく。

「紘一のレストランと桐島の事業との提携の件は、順調のようだな。桐島の提案する富裕層向けのクルージングツアーの目玉に、あのレストランの料理を提供するんだったか。あっ、今のはここだけの話にしておいてくれよ。大体的な発表が後日だったからな」

 少し酔っているのか、父がついと言った感じで口を滑らせる。

「え、ええ」

 なんとかそう返したが、初めて知る詳しい事実に内心で驚いていた。

 父からの情報から察するに、この話はかなり前から進められていたのだろう。和也さんの部下もさっき話題にしていたくらいだ。進んでいるどころか、すでに具体的なところまで詰められているのかもしれない。

「紗季のおかげで、春野はこれまで以上に規模を拡大していけるだろう」

 フロア全体を見回しながら満足そうにうなずく父に、私はどう返していいのかわからないでいた。
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