だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
 仕事をがんばりたい私としては、ペースを合わせてくれるのはありがたかった。

 でも横宮さんとの親密な様子を目の当たりにして、あれは思いやりではなかったのかもしれないと疑った。
 彼の私への気遣いは、配慮ではない。私に対して、異性としての興味がないから淡白だったのかとひどく落ち込んだ。

 和也さんはそれを、私の思い違いだと言う。そして、これからは遠慮なく本当の自分を見せていくとも。

「強引なところも情熱的な面も、これまであまり見せてくれなかったじゃない」

 もちろんゼロではないけれど、あくまで普段は気性の穏やかな人だ。
 甘えきっていた私も悪かったけれど、彼に遠慮はしてほしくなかった。

 私が離婚を切り出したことで、和也さんはこれまで抑えていたがもう我慢しないと態度を変えた。そしてすぐに実行に移した。

 昨夜の私は、あまりよく眠れなかった上に朝も早くに目を覚ましてしまった。それに気づいた和也さんが、私を抱きしめ直して髪に唇を押し当ててくる。

 これまでだったらもう少し寝ていようと抱きしめ直されるくらいだっただろうが、今日は違った。
 私の髪に口づけながら、繰り返し背中をなでられる。たまに肌を掠める彼の吐息が、どこか甘さを帯びていて落ち着かない。
おまけに『愛している』なんてささやかれて、妙な気分になってくる。

 もうどうしていいのかわからず身を強張らせた私を、彼はさらに胸もとに引き寄せた。

『まだ早いから、もう少し寝ていよう』

 そう言って、ようやく私は解放された。
 いいや、厳密には抱きしめられたままだから解放はされてはいない。それ以上の甘い触れ合いをストップしてくれただけだ。

 やたら和也さんを意識してしまい、寝られるわけがない。それに、このまま眠るのはどうなのかと変な対抗意識が生まれてくる。そこには、離婚を突きつけた意地もあったのかもしれない。

 彼が再び眠ったら起きよう。
 そう決めていたはずなのに、和也さんの温もりに包まれているうちに二度寝をしてしまった私の意志の弱さと言ったらない。彼の腕の中で安堵する自分が恨めしかった。
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