だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
 再び目を覚ました時には、和也さんが私の顔を覗き込んでいた。

『おはよう、紗季。寝顔もかわいかった』
『お、おはよう』

 この人を容姿で選んだわけじゃないけれど、和也さんは顔が抜群にカッコいい。
 そんな人に至近距離から見つめられた上に、蕩けるような笑顔を浮かべて甘い言葉をかけられてはたまらない。

『はあ。このまま一日中、紗季を腕の中に閉じ込めておきたい』

 私を抱き込む彼の手に力がこもる。
 薄いパジャマ越しに彼の体温を感じて、否応なしに体が火照ってしまう。
 居心地が悪くて仕方がないが、不用意に身じろいでこれ以上よろしくない態勢になったら悲惨だとじっと耐えた。

 これまでの和也さんなら、決してこんなふうには言わなかった。
 彼だって私以上に仕事熱心な人で、平日なら名残り惜しそうな顔はしてもさっと起き出していく。
 休日であっても、ベッドで遅くまでだらだら過ごす人じゃない。私より早く動きだして、率先して家事をしてくれていた。

 普段と違う、慣れないこの状況に鼓動が速くなる。
 こちらの緊張に気づいているのか、和也さんがくすりと笑った。

『というのが俺の本音だ。いや、抱きしめているだけじゃ足りないな』

 耳に吹き込むようにささやかれて、ぶるりと体が震えた。さらに足を絡ませてくるからたまらない。
 その先の想像を、頭の中から必死に追い出す。

 羞恥心に耐えきれなくなった私は、最終的に彼の腕から逃げ出した。
 背後から聞こえた忍び笑いには、気づかないふりを押し通す。

『わ、私、やり残した仕事があるから、今日は会社へ行ってくる』

 とっさにそう宣言していた。
 おそらく彼は、それがこの場で思いついた言い訳だとわかっていただろう。それでも引き留めることなく、私の意思を尊重してくれた。

 オフィスにはほかにも同僚が数人来ており、なぜかほっとした。
 デスクに着いて、パソコンを立ち上げる。

 私と和也さんは、これからどうなっていくのだろうか。
 甘い彼に早くも揺れ動く心を叱咤して、冷静な目できちんと見極めなくてはと気を引き締め直した。
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