だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~

離婚か再構築か

 気まずい。
 自自宅が一番落ち着くはずのスペースなのに、なんとも居心地が悪い。

 休日出勤から帰宅した昨夜は、和也さんが私のために夕飯を用意して待っていてくれた。
 それに感謝しつつも、やはりきまりが悪い。早いところ寝てしまおうと目論んで動いていたが、そんな魂胆など彼にバレていたのだろう。寝ようとベッドに入ったタイミングでやってきた和也さんに、しっかり抱き込まれていた。まるで捕獲された気分だ。

 そして繰り返される、早朝の攻防。

 再び逃げ出してしまいたかったけれど、さすがに二日も連続で休日出勤するのはと踏みとどまっている。
 ただ、どう過ごしていればいいのかよくわからない。
 その結果、朝食を食べてすぐに自室にこもっている。

 今の私は和也さんを完全に信じられず、当然まだ心の整理がつかない。
 でも疑惑をあれほどきっぱりと否定されれば、昨夜のような衝動的な勢いも怒りの感情も鳴りを潜めてしまう。

「部屋を出づらい……」

 いつになく弱気になる。
 私がこうしている間にも和也さんはたまった家事をしてくれているようで、耳を凝らすと小さなもの音が聞こえてくる。さすがにそれは心苦しい。

 こんな状況でも、そう冷静に考えてしまう自分が恨めしい。気づいたからには放っておけず、やたらそわそわする。

 どうしようかと迷っていたところに、部屋の扉をノックされた。
 体が小さく飛び跳ね、そろりと扉の方を伺う。

「は、はい」
「紗季、今いいか? 評判のいいコーヒー豆を買ったから、アイスコーヒー淹れたよ。紗季の分もあるから、リビングにおいで」

 話をしようと言われるかもと身構えていただけに、軽い誘いに拍子抜けする。
 あまりにも通常運転の彼に、うじうじ悩んでいた自分はなんだったのかと思えてきた。

「う、うん」

 私の返事を聞いて、和也さんの足音が去っていく。
 せっかく彼がくれたきっかけを無駄にしてはいけないと、重い腰を上げた。
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