だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
『――やっぱりねぇ、料理は本場で食べてこそですよ。この蒸し暑い時期に、冷たくてピリッと辛い韓国冷麺。このナムルも美味しい』

 休みの今日はゆっくり過ごそうと、リビングのソファーに座って、なんとなくつけていたテレビを眺める。

『もちろん日本で食べられるものも美味しんですよ。でもねぇ、この活気の中で食べるのは格別!』

 さっきから流れているのはグルメ番組で、今日の特集は韓国の屋台のようだ。
 現地に飛んだ若手人気タレントが、一押しの料理を紹介している。
 ひと言しゃべるたびに料理を頬張る姿が羨ましくて、だんだん前のめりになって見ていた。

『これ、なんだかわかります?』

 初めて目にする食べ物に、無意識に小さく首を左右に振る。

『ピンデトッ! 韓国版のお好み焼きのようなもので、緑豆とお肉や野菜がふんだんに入っているんです。外はカリッと中はふんわりしていて、お酒のおつまみにも最適。日本でも流行るかもしれませんよ!』

 なに、その反則な食べ物。絶対に美味しいやつだ。

『屋台には、スイーツも豊富にそろっていますよ。ぜひお越しください』

「韓国かあ……」

 つい声に出てしまい、ハッとして姿勢を戻した。

 背後にあるダイニングテーブルでは、和也さんが仕事をしている。
今のつぶやきが聞こえただろうかと、そろりと振り向いて確認する。彼は瞬きも少なく、パソコンに目を向けたまま集中していた。
 どうやら私の声は和也さんのところまで届いていなかったようだ。ほっとしながら、再びテレビに視線を戻した。

 一カ月前に離婚を切りだしてからというもの、彼は寸暇を惜しむようにして私のそばにいる。
 今日だって私が家でゆっくりするつもりだと話すと、彼はダイニングのテーブルにパソコンを置いて仕事を始めた。きっと以前の彼なら、休日出勤していたのだと思う。もしくは、自室にこもっていただろうか。

 なんだかんだ言いつつ、一緒に過ごしているうちに自然とぎこちなさもなくなっていった。逃げるための休日出勤は、あれ以来一度もしていない。
 完全に元の関係に戻ったとまでは言わない。けれど、そばにいても変に意識しないでくつろいでいられるくらいにはなっている。
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