だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
 離婚を切りだした夜の私は、一時の感情にのみ込まれて和也さんのすべてを拒絶した。

 あのまま別居をしていたら、今頃すっかり私の心は彼から離れていたかもしれない……というのは強がりだ。彼に未練を残したまま、それでも許せなくて、と揺れに揺れていただろう。

 こうして近くにいると、和也さんの優しさをあらためて感じる機会がたくさんある。それに、不貞を匂わす素振りなどまったくないのもわかった。
 あの夜の横宮さんとの疑惑は、和也さんの言う通り彼女の一方的なものだったのだろう。キスが未遂だったのも本当なのだと、いっそう確信を深めている。

 簡単に絆されてはいけないなんて思っていたけれど、それ以前に彼には疑念を抱くような隙がない。冷静になって考えてみれば、こういう和也さんの態度は交際をしている時からなにも変わっていないように思う。

「ああ、もう昼か。紗季、なにが食べたい?」

 突然聞こえた和也さんの声にハッとする。
 視線を窓に向けると、外は雨が降っていた。

 さっき見た冷麺が頭に浮かんだが材料がない。すっかりくつろいでいたから、今から買い物に出るのも外食へ行くのも面倒だ。

「あるもので、なにか作ろうか」

 週末の二日間の休みのうち、せめて一日は自宅でゆっくりしたいという私の生活スタイルは、もちろん和也さんも把握している。
 即答をしない私に、彼が提案してくれた。
 
 大企業の御曹司だというのに、こういう庶民感覚を持ち合わせているところが好ましい。私とも価値観が合い、一緒にいて気が楽だ。
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