だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
「私が作るから」

 さすがにこれまで仕事をしていた彼にやらせるわけにはいかないと、慌てて立ち上がった。

 結婚の継続を見極めている期間だとはいえ、家庭内の役割を放棄するつもりはない。それはあまりにも無責任で私の主義に反するし、歩み寄りを見せる彼に失礼だ。

「一緒に作ろう。その方が早いし、俺も気分転換になってちょうどいい」

 そう言われてしまえば断る理由はなく、ふたりそろってキッチンに向かった。

 冷蔵庫を開けて、食材を確認する。背後に立った和也さんが、私の両肩に手を置く。そのまましゃがんで、私と顔を並べながら庫内を覗き込んだ。
 頬が触れそうなほど近い。体の関係だってあるというのに、こういう親密さを感じるやりとりに、まるで交際を始めた頃のようにドキドキしてしまう。

 もちろん今は、一緒に眠っているといっても清い関係が続いている。
 和也さんは、日常生活の中でさりげなく私に触れてくる機会が増えた。これまでよりもますます積極的で、私の方がたじたじになってしまう。

 なにか思いついたのか、和也さんは私の髪をひとなでして立ち上がった。

「さっぱりしたものでいい?」

 まさしく求めていたものを提案されて、迷いなくうなずく。

「じゃあ、トマトとオクラを使ったそうめんにしよう」

 手際よく材料を用意した和也さんがシンクに向かう。彼が先に包丁を手にしたから、自然と私は麺を茹でる係に回った。

 離婚か再構築か。まだ結論は出せていないけれど、もう一度彼を信じたい方へ気持ちが傾いているのは否定しない。
 反発しているばかりでは前に進めないし、あまりにも大人げない。
 私の中から彼への好意がなくなっていないのも事実で、ふたりでの作業に密かに心を躍らせた。
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