だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
「和也さんって、料理も得意だよね」

〝も〟とつけたのは、彼が洗濯も掃除もなんでもこなせてしまえるからだ。
 今日のランチだって、彼が主導で作っている。
 ゆで上がった麺を器に盛ると、和也さんが野菜を見映えよく乗せていった。

「得意って程でもない。ひとり暮らしをして、必要に迫られてやらざるをえなかった。紗季だってそうじゃないのか」
「まあ、たしかに」

 食器をテーブルに運び、カトラリーを用意する。

 実家に住んでいた頃から、私は家業と関係ない仕事に就こうと決めていた。だから家を出ていくことを想定して、家事の練習も怠らなかった。就職して以来、仕事が多忙でつい手抜きになりがちだけど、ひと通りのことはこなせる。

「おかげで、紗季を支えられる」

 私を手助けできることが心底うれしいとでもいうように微笑まれる。
 気恥ずかしさをごまかすように、視線を手もとに落として食事を始めた。

「美味しい」
「そう? よかった」

 てっきり野菜を加えたそうめんを作るのかと思いきや、彼はさらにハムや卵を加えて冷やし中華のように仕上げた。
 お酢の効いたさっぱりとした味が美味しくて、食欲が増す。

「つゆから作れちゃうなんて、すごいなあ」

 私ではここまでできないと嘆く。

「俺は紗季の作ってくれる料理が好きだけどな。どれも美味しいが、そうだなあ。あのスパイスの調合からこだわって作るカレーライスは絶品だ」

 料理好きな兄に触発されて、一時期手作りカレーにこだわっていたことがある。平日はさすがに無理だけど、時間のある休日に和也さんにも何度か振る舞った。

「今度また作ってよ」

 もちろんとうなずいた私に、和也さんはうれしそうな顔をした。

 食べ終えて片づけようと立ち上がる私より、一歩早く和也さんが立ち上がる。
 当然のように、ふたり分の食器を持って行ってくれた。
 それならばと、私はコーヒーを淹れる。

「紗季、来週末の予定はなにか入ってる?」

 ソファーに座ってひと息ついたところで、隣から和也さんが尋ねてきた。

「買い出しに出かけようと思っていたくらいかな」
「それなら、俺に付き合ってほしい」

 なにかあるのかと首を傾げる。

「いいけど……?」

 今はまだ予定を明かすつもりはないようで、彼は「楽しみにしていて」と言い残して仕事に戻っていった。
< 70 / 141 >

この作品をシェア

pagetop