だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
「ね、ねえ、和也さん?」
「なんだ?」
「ここはなんなんの? 初めて来るんだけど」

 いったい彼は、なにをするつもりなのか。

「プライベートジェットを予約したから」

 笑みを深めた和也さんが、当然だというように言い放った。
 先週末。冷蔵庫の中に残っていたもので、ランチをパパっと作った庶民感覚はどこへ行った⁉
 飛行機を個人的にチャーターするのに、いったいいくらかかるのかと怖くなってきた。

「韓国の屋台料理を、テレビを食い入るように見ていた紗季があまりにもかわいくて。連れて行ってやりたくなった」

 あのときの和也さんは素知らぬ顔をして仕事をしていたが、前のめりになっていた私に気づいていたのかと恥ずかしくなる。明らかに食い意地が張っていたはずで、決してかわいいと言われるような状態になかったに違いない。

「だ、だからって、プライベートジェットは……」
「手続きはすべて俺がするから、紗季はただ旅を楽しんでほしい」

 やりすぎじゃないかという、私の意見は彼の言葉に遮られる。
 ここまで来て断るのは、和也さんをがっかりさせかねないからさすがにできない。

「贅沢だわ」

 でも、言うべきことは言っておく。

「今日は特別だ。紗季の心を取り戻そうと、俺だって必死なんだよ。愛しい妻のささやかな願いくらい叶えさせてくれ。ほら、行こう」

 そこを突かれたら言い返しづらいし、〝愛しい妻〟だなんてさりげなく挟まれて気恥ずかしい。
 彼を突き放したのは私の方だし、三カ月の猶予を受け入れたのも自分だ。ここは素直に受け入れるべきなのだろう。

 どうせなら、全力で楽しんでしまった方がいい。
 先週見た韓国の屋台料理はどれも本当に美味しそうで、羨ましかった。だから、ぜひとも味わってみたい。
 それに普段と違う状況にあれば、彼の本音も出やすいのかもしれない。

「連れ出してくれてありがとう」

 素直にお礼を伝えた私に、和也さんはほっとしたようだ。
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