だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
 保安検査を終えて、すぐに機内へ案内される。初めての経験に緊張していたが、背中に添えてくれた和也さんの手の温もりに安堵して、この旅への期待がどんどん膨らんでいった。

 座席はゆったりとしており、ベッドまで用意されている。食事やドリンクもオーダー可能で、至れり尽くせりの仕様だ。
 目的地は韓国の釜山。おおよそ二時間半の旅になる。

「紗季はなにか具体的に行きたいところや、やりたいことはあるか?」

 和也さんが、パソコンで韓国の観光サイトを見せてくれる。
 大まかな予定は彼が立ててくれているようで、私の希望に沿って柔軟に変えられるらしい。

「テレビで見たような、屋台で食べ歩きがしたいかな」

 すごく贅沢な移動をしていながら目的があまりにもささやかだが、和也さんに気を悪くした様子はない。それどころか彼は、私の希望を聞けて満足そうな顔をした。

「了解。紗季に喜んでもらえるように、精いっぱいもてなさせてもらうよ」

 大きな企業の社長を勤める和也さんが、暇なはずがない。
 観光産業に携わっているのだから手配はお手の物だったかもしれないが、今のすべて彼自らが動いて用意してくれたのだろう。
 そもそも和也さんは、プライベートな事情で部下の手を煩わせる人ではないくらい知っている。

 これほど過剰な贅沢をしていたら、普段なら咎めていただろう。金銭感覚がずれているのは、一緒に暮らす上で大きなストレスになりかねない。

 ただ、交際当時から彼がこんな突拍子もない行動に出たことは一度もなかった。
 休日は出不精な私に合わせて、自宅でゆっくり過ごす時間の方が圧倒的に多い。

 驚かされたといえば、私の誕生日に高級なレストランへ連れて行かれて、プロポーズをされたときだろうか。
 イベントや記念日など、彼はここぞという場面では率先して私を連れ出してくれたが、見境なく散財するような人ではない。

 仕事が落ち着いてから新婚旅行について考えようと話していたのだし、今日がその代わりだと思えば許容範囲なのだろう、たぶん。
 私の想像よりはるかに費用がかかっていたら怖いから、プライベートジェットについてはなにも調べないで知らないままでいようと固く誓った。
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