だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
「桐島さん。牧田商事の方はどうなってる?」
「はい。必要な分の生地は確保済みです。あっ、そうだ。牧田さんですけど、肌触りのいいオーガンジーが新しく入ったそうなんです。もしかしたらデザイナーの奥寺さんが求めていたものに合うかもしれないので、サンプルが届いたらすぐに回しておきます」

 私の返答に、藤堂さんが満足そうにうなずく。

「よろしくね」

 新ブランドの事業は、ますます忙しさを増している。

 休日に韓国でリフレッシュしたのがよかったようで、翌日から体が軽くてやる気がどんどんあふれてくる。やるべきことは次々と出てきて残業続きになっているものの、前向きな気持ちで楽しんで仕事に取り組めているから苦にならない。

 帰宅すれば、家では和也さんが協力してくれる。夕飯は惣菜を買って帰ったり宅配に頼ったりしても彼は嫌な顔ひとつしないし、これまでと同じように和也さんが食事を用意してくれる日もある。

 和也さんは、この現状をどう思っているのだろう。彼だって多忙な身だし、私よりも帰宅が遅くなる日もある。

 兄の事業の件は別として、彼に私と結婚したメリットってあるのだろうかとふと考えた。

 今の私は、家事が手抜きになるどころかこなしきれていない。さらに、もうずっと体の関係もない。こんな言い方は好きじゃないけれど、結婚したというのに欲を発散できない状態を彼に強いている。

 仕事を終えて、電車に揺られながら私たち夫婦について考えを巡らす。

 彼が私を求める理由は事業の提携ではないんだろうなと、確信を深めつつある。
 二社はもう契約を結んでいるのだから、解消となればペナルティーが生じる。ここまできたら、些細なことで破棄はできないだろう。
 だから、和也さんが私を気遣う必要なんてない。

 それなのに彼は、私に対する優しい態度をいっさい崩さないでいる。
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