だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
「三十八度か。けっこう高いな。紗季、なにかほしいものはあるか?」
「と、く、には……」

 熱い吐息とともに、掠れた声でなんとか返す。
 出社時間は、刻々と迫っている。行かなければと無理に体を起こそうとした私を、和也さんが制した。

「だめだ、紗季。こんなに熱が上がっているんだ。今日は行かせられない」
「でも……」

 昨夜まではいたっていつも通りだったというのに、今朝目覚めたら発熱して起きられなくなっていた。

 韓国から帰国した一週間は、なんだか気分がハイになって精力的にこなせていた。
 翌週も同じように仕事をしていたけれど、高揚する心とは別で体は休息を求めていたらしい。
 ここ数日は毎日のように残業が続いていたし、取引先の訪問などもあってとにかく忙しかった。だから疲労がたまっていたのだろう。

「でも、じゃないよ。会社の方へは、俺から連絡を入れておくから。体調が落ち着くまでは、しっかり休むこと」

 会社に行かなければと焦りはあるけれど、体が怠くて動かない。渋々うなずいて、瞼を閉じた。

 和也さんが出ていくと、室内には私の荒い息遣いだけが響く。意識は朦朧として、そのまま眠りについた。

 次に目を覚ましたときには、窓の外がすっかり明るくなっていた。
 体を起こす気力もわかず、それを視線だけで確認をした後はぼんやりと天井を見つめた。

「紗季、入るよ」
「え?」

 正確には何時なのかと、慌てて時計を見る。
 時刻はすでに十一時を過ぎていた。金曜日のこの時間に和也さんが自宅にいるとは思わず、驚きの声をあげた。
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