だって結婚に愛はなかったと聞いたので!~離婚宣言したら旦那様の溺愛が炸裂して!?~
「ん……紗季か?」

 物音で、彼を起こしてしまったらしい。
 寝起きのぼんやりとした様子はすぐに霧散し、和也さんがパッと私を見た。

「調子はどうだ?」

 すぐさま立ち上がって私に近づき、額に手を当ててくる。

「だいぶ楽になってきた」
「でも、まだ熱はありそうだ」

 眉を下げて、心配そうに私の顔を覗き込む。

「喉が渇いちゃって」

 ベッドに私を吸われせると、すぐに水を用意してくれた。

「いろいろとありがとう。私はこのまま寝ていれば私は大丈夫だから、和也さんもちゃんとベッドで眠ってほしい」
「ああ。紗季の邪魔をしてはいけないから、俺は隣の部屋で……」

 隣室も寝られるように用意はしてあるが、これまで一度も使用したことがない。こういう時のために使う目的もあったが、彼が私に背を向けた途端に心細さに襲われて、思わず服の端を掴んだ。

「紗季?」
「いや、あの……えっと……」

 私はどちらかといえば体は丈夫な方で、熱を出したのも数年ぶりだ。ただひとたび発熱すると高温になりがちで、長引くことが多い。

 家を出て以来、実家とはあまり密な関係を築いてこなかった。そのため、体調を崩したときはいつだってひとりでやり過ごしていた。
 元カレの一件もあって、その後に移り住んだマンションは兄と限られた友人にしか知らせていない。食料や薬がなくて困ったときは兄に来てくれるようにお願いもしていたが、それだって必要最低限だった。
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